Azure Site Recovery を利用したディザスタリカバリ

1. Azure Site Recovery を利用したディザスタリカバリ

概要

ディザスタリカバリ計画は、事業継続性のために不可欠です。予期せぬ災害（自然災害、人為的なミス、サイバー攻撃など）が発生した場合でも、ビジネスを継続し、データを保護するために、事前に計画を立てておく必要があります。Azure Site Recovery (ASR) は、Microsoft Azure が提供するディザスタリカバリサービスであり、オンプレミス環境や他のクラウド環境で実行されている仮想マシン (VM) を Azure へ複製し、災害発生時に迅速にフェイルオーバーできるようにします。本記事では、ASR の基本的な概念から、構成、運用、そして高度な機能まで、初心者向けに詳しく解説します。

ディザスタリカバリの重要性

ディザスタリカバリは、単なるITの問題ではありません。ビジネスの存続に関わる重要な戦略です。災害発生時のダウンタイムは、収益の損失、顧客の信頼の低下、ブランドイメージの毀損など、様々な悪影響をもたらします。効果的なディザスタリカバリ計画は、これらのリスクを最小限に抑え、ビジネスの継続性を確保します。

復旧時間目標 (RTO) と復旧時点目標 (RPO) は、ディザスタリカバリ計画を策定する上で重要な指標となります。RTO は、災害発生からシステムを復旧させるまでの許容時間であり、RPO は、失っても許容できるデータの最大量を示します。ASR は、これらの目標を達成するための強力なツールとなります。

Azure Site Recovery の仕組み

ASR は、主に以下の3つの主要なコンポーネントで構成されます。

**複製:** オンプレミスまたは他のクラウド環境の VM のデータを Azure へ継続的に複製します。
**フェイルオーバー:** 災害発生時に、Azure 上の複製された VM を起動し、本番環境の役割を引き継ぎます。
**フェイルバック:** 災害が復旧した後、本番環境の VM に処理を戻します。

ASR は、エージェントベースとエージェントレスの2つの複製方法をサポートしています。エージェントベースの複製は、VM 内にエージェントをインストールしてデータを複製する方法であり、より細かい制御が可能ですが、VM のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。エージェントレスの複製は、VMware vSphere や Hyper-V などの仮想化プラットフォームの機能を活用してデータを複製する方法であり、VM のパフォーマンスへの影響を最小限に抑えることができます。

Azure Site Recovery の構成

ASR を構成するには、以下の手順を実行します。

1. **Recovery Services Vault の作成:** Recovery Services Vault は、ASR の構成情報や複製されたデータを格納するコンテナです。Azure portal で Recovery Services Vault を作成します。 2. **レプリケーション目標の設定:** 複製する VM の種類、複製頻度、復旧ポイントの保持期間などを設定します。レプリケーションポリシーを適切に設定することで、RTO と RPO を最適化できます。 3. **複製ソースの準備:** オンプレミス環境または他のクラウド環境の VM を ASR が認識できるように準備します。これには、必要なソフトウェアのインストールやネットワーク設定の変更が含まれる場合があります。 4. **複製の設定:** 複製する VM を選択し、複製を開始します。ASR は、選択された VM のデータを Azure へ複製します。 5. **フェイルオーバーテストの実施:** 災害発生をシミュレートし、フェイルオーバーが正常に機能することを確認します。フェイルオーバーテストは、ディザスタリカバリ計画の有効性を検証するために重要です。

Azure Site Recovery の運用

ASR の運用には、以下のタスクが含まれます。

**複製状態の監視:** ASR は、複製の状態を監視し、問題が発生した場合は通知を送信します。監視は、ディザスタリカバリ計画の信頼性を維持するために不可欠です。
**復旧ポイントの管理:** ASR は、複数の復旧ポイントを保持します。必要に応じて、特定の復旧ポイントを選択してフェイルオーバーを実行できます。復旧ポイントの管理は、データの損失を最小限に抑えるために重要です。
**フェイルオーバーの実行:** 災害発生時に、Azure 上の複製された VM を起動し、本番環境の役割を引き継ぎます。フェイルオーバー手順は、事前に明確に定義しておく必要があります。
**フェイルバックの実行:** 災害が復旧した後、本番環境の VM に処理を戻します。フェイルバック手順は、フェイルオーバーと同様に、事前に明確に定義しておく必要があります。

Azure Site Recovery の高度な機能

ASR は、基本的なディザスタリカバリ機能に加えて、以下の高度な機能も提供しています。

**Application Consistent Snapshot:** アプリケーションが整合性の取れた状態で複製されるようにします。これにより、データベースなどのアプリケーションを復旧する際にデータ損失や破損のリスクを軽減できます。アプリケーション整合性は、重要なアプリケーションのディザスタリカバリにおいて不可欠です。
**ストレージレベルのスナップショット:** ストレージレベルでスナップショットを作成して複製することで、複製速度を向上させることができます。ストレージレベルのスナップショットは、大規模な環境で特に有効です。
**自動フェイルオーバー:** 特定の条件 (例: VM へのアクセス不能) が発生した場合に、ASR が自動的にフェイルオーバーを実行します。自動フェイルオーバーは、RTO を短縮するために有効です。
**Site-to-Site 連携:** 複数の Azure リージョン間でディザスタリカバリを構成できます。Site-to-Site 連携は、より高い可用性と信頼性を実現するために有効です。
**DR Drill:** 定期的にフェイルオーバーテストを実施し、ディザスタリカバリ計画の有効性を検証します。DR Drill は、ディザスタリカバリ計画を常に最新の状態に保つために重要です。

Azure Site Recovery と他のディザスタリカバリソリューションとの比較

ASR は、多くのディザスタリカバリソリューションの1つです。他のソリューションと比較して、ASR は以下の利点があります。

**コスト効率:** ASR は、使用したリソースに対してのみ料金が発生する従量課金モデルを採用しています。
**スケーラビリティ:** ASR は、Azure のスケーラビリティを活用して、大規模な環境にも対応できます。
**統合:** ASR は、Azure の他のサービス (例: Azure Virtual Network, Azure Storage) と緊密に統合されています。
**信頼性:** ASR は、Microsoft のグローバルなインフラストラクチャ上で実行されており、高い信頼性を実現しています。

他のディザスタリカバリソリューション（例：VMware Site Recovery Manager、Zerto）と比較検討し、自社の要件に最適なソリューションを選択することが重要です。

トラブルシューティング

ASR の構成や運用中に発生する可能性のある問題は様々です。一般的な問題とその解決策を以下に示します。

**複製が失敗する:** ネットワーク接続、認証情報、ストレージスペースなどを確認します。
**フェイルオーバーが失敗する:** ネットワーク構成、VM の設定、アプリケーションの依存関係などを確認します。
**フェイルバックが失敗する:** ネットワーク構成、VM の設定、アプリケーションの依存関係などを確認します。

Microsoft のドキュメントやサポートリソースを参照して、問題を解決するための詳細な手順を確認してください。ASR のドキュメントは、トラブルシューティングに役立つ情報を提供しています。

まとめ

Azure Site Recovery は、効果的で信頼性の高いディザスタリカバリソリューションです。本記事で解説した内容を参考に、ASR を活用してビジネスの継続性を確保し、災害に備えてください。定期的なテストとメンテナンスを行い、ディザスタリカバリ計画を常に最新の状態に保つことが重要です。

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